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車椅子ライターから見た使いやすい文房具、オススメ文房具

千葉 勇

普段何気なく使っている文房具だが、人によって使いやすい文房具と、使いにくい文房具は違うかもしれない。ライターの波子さんは、背骨が曲がる病気にかかり、5年ほど前から車いすを利用するようになった。現在は“車椅子ライター”として、自らの経験を綴ったコラム「車いすでみるなら」を産経新聞の奈良版に連載している。波子さんに使いやすい文房具、オススメの文房具について聞いた。

片手で使える便利な文房具

私は初めから車いすのお世話になっていたわけではないんです。背骨が曲がる脊柱側弯症になり、先天性ミオパチーという筋力が低下する病気だと診断されました。2005年から杖をついて歩くようになり、2012年からは車いすに、2014年からは簡易型電動車いすを利用しています。1人で移動することはできますが、体幹の筋力が弱いため、座るときは上半身を左手で支えます。机の上で何かをするときは、左ひじを机上について支え、右手で道具を使います。右手だけで作業できると楽なので、片手で使える文房具がとても便利なんです

そういって持参した文房具の中から取り出したのは、スリーエムジャパンの「ポストイット 強粘着ポップアップノート ディスペンサー」だ。通常、ふせんを使うときは、1枚はがすのに両手を使うが、この商品はティッシュペーパーのようにふせんを取り出せるため、「片手でさっと使えてすごく画期的」と波子さんは目を輝かせる。ディスペンサー自体の重みもあるので、ふせんを引っ張り出すときに動かない点も気に入っている理由の1つだ。

ポストイット 強粘着ポップアップノート ディスペンサー.jpgスリーエムジャパン「ポストイット 強粘着ポップアップノート ディスペンサー」


ほかにも片手で使いやすい文房具はいろいろあるという。例えば、ぺんてるの油性マーカー「ノック式ハンディPentelPEN」。キャップ式だとキャップを外すときに両手を使うが、ノック式ならキャップを空ける必要がないため、片手でもOKというわけ。しかも手が汚れる心配がないという。ノックが固いと感じた場合は、ノック部分を机に押し当てれば少ない力でもノックできるという裏技も披露してくれた。また、ペンの軸は太い方が持ちやすくて書きやすいという。

ノック式ハンディPentelPEN.jpgぺんてる「ノック式ハンディPentelPEN」


はさみでは、プラスのスリムなスティック状の「フィットカートカーブ ツイッギー」が大のお気に入りだ。その理由は、刃先を収納したキャップを外してハンドルのロックを解除し、切りたいものを切って、キャップをはめるまでの一連の動作がすべて片手で行えるから。しかも、親指側のハンドルが短いため、指を開く幅が小さくて済むのも助かるという。波子さんのように指を開く力が弱い人は、指を大きく開くのが苦手。指を大きく開かなくても使えるツイッギーは、切れ味もよく、波子さんはいつもカバンに入れて持ち歩いている。

ツィッギー.jpgプラス「フィットカートカーブ ツイッギー

弱い力でも使いやすい文房具

波子さんの握力は15kgと同年齢の女性の半分ほどしかない。以前よりも手の力が弱くなっていると感じるそうで、強く握る、しっかり持つ、つまむ、手を開くといった動作が苦手。そこで、弱い力でも使いやすい文房具について聞いてみた。

「トンボ鉛筆の『MONO』シリーズの修正テープが気に入って使っています」。そう言うと波子さんは3種類の修正テープを取り出した。「MONO PGX」「MONO ERGO」「MONO AIR」で、それぞれに使いやすい特徴があるため、3種類を使い分けているという。

「MONO PGX」はボディーが細長いため、指に触れる面積が広く、安定して持ちやすいのだとか。しかも、人差し指の根元と親指、中指の3点で支えれば、しっかり握らなくても少ない力でテープを引くことができるので使いやすいという。

MONO PGX.jpg

トンボ鉛筆「MONO PGX」


「MONO ERGO」は人間工学(エルゴノミクス)に基づいたデザインを採用。エルゴという商品名もここからきており、だれでも最適な持ち方と角度で使用できるのが特徴。手の中に握り込むようにして持てる平たい形で、とても安定して持ちやすいという。

そして3種類の中で最もコンパクトなのが「MONO AIR」。「奈良の文具店のお試しコーナーにあったので、使ってみて気に入り購入しました。親指と中指の2本で支えるだけで、驚くほど軽く引くことができ、しっかり握る必要がありません」というのが気に入った理由。

リングファイルは金具を開くのが苦手だという波子さん。しかし、LIHIT LAB.の「noie-style リングファイル<ツイストリング>」は、指で付属のオープナーを左に軽くスライドさせるだけで、金具を開くことができるユニバーサルデザイン。閉じるときは金具をつまむだけなので使いやすい。「これが本当に楽なんです」と何度も開いたり閉じたりを繰り返して見せてくれた。

noie-style リングファイル.jpgLIHIT LAB.「noie-style リングファイル<ツイストリング>」

筆圧が弱くても書きやすいオススメのペン

最後に筆圧が弱くても書きやすいオススメのペンを聞いてみた。

近ごろはペンを持つ力が弱くなってきて、万年筆や筆ペン、フェルトペンを使う機会が増えたという波子さんのオススメは、呉竹の筆ペン「くれ竹美文字 完美王」。軸を押して墨を出す“押すタイプ”の筆ペンはストレスを感じるので苦手というが、“押さずに流れる”新機構を採用した完美王は、「本当に書きやすいです。筆の先がちょっと紙に触れるだけで、するすると墨が出るんですよ。年賀状の宛名を100枚以上書いても疲れませんでした」と大絶賛。

完美王.jpg

呉竹「くれ竹美文字 完美王」


また、筆ペンで細かい字を書きたいときは、呉竹の「美文字筆ぺん毛筆中字」を愛用している。

ボールペンで書くのはそれなりの筆圧が必要なので、あまり使わないそうだが、セーラー万年筆の「G-FREE」は軽い力でも書きやすいという。「G-FREE」のお気に入りポイントは、ノック部分をカチカチ回すとスプリングの強さが9段階から選べるところ。クリップ部分を12時の位置にセットした場合、1時が最もゆるく、11時方向に回すと、どんどん硬くなる仕組みで、波子さんは1時の方向にセットして使用している。

G-FREE.jpg

セーラー万年筆「G-FREE」



波子さんは最近の文房具について、「片手で使える」「弱い力でも使いやすい」「筆圧が弱くても書きやすい」ものが増えていると感じている。また、パンチやホッチキスに関しても軽い力で使えるものの登場を喜んでいる。「もう昔の文房具には戻れない」という波子さんの言葉を聞いて、文房具が着実に進化していることを実感した。もはやほとんどの文房具が機能的には成熟しているようにも見えるが、文具メーカーの技術革新による使用感の小さな向上が、想像以上に誰かの生活を助ける可能性があるということだ。そういった文房具の進化を待ちわびている人は少なくないはず。今後も多くの人にとって使いやすい製品がどんどん開発されることに期待したい。



【波子さんプロフィール】
1974年生まれ。脊柱側弯症、先天性ミオパチーのため、2014年12月から簡易型電動車いすを使用。便利な道具や文房具が好き。奈良市で生まれ育ち、大阪・東京での暮らしを経て現在奈良市在住。
ブログ「車椅子、ときどき杖。」 http://nam-kid.hatenablog.com/

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